2019年7月10日水曜日

短編小説「あいをしてる。」

「あいしてる。」

言ってみたらナナさんは笑った。「うん、好き。」言いながら、僕の頭に手を伸ばした。髪をくしゃくしゃ触った。「どうしたの?ハルト急に。」

いつもの、眠る前の一番穏やかな夜の空気。

「あいしてるって意味をきちんと知って、人に言えるようになってみたいんだよ。そういう人になりたかったんだよ。でもやっぱり、意味なんか分からない。」

2019年6月6日木曜日

短編小説「ホクロ」

私達が、お互いの肌を自由に触れる様な距離になった頃。彼がある日、私の顔のホクロを指で優しく押さえて、にこにこと嬉しそうに笑った。初めは彼が何をしているのか理解出来ずにいた。私の口元の、その場所を指で押さえる彼の手に触れながら「何??」と尋ねたら、彼は嬉しそうに弾んだ声で

『ホクロ。』

と答えた。