2017年9月8日金曜日

【読書感想文】燃え殻「ボクたちはみんな大人になれなかった」を読んで

なりたいものが、具体的にあったわけではなかった。ただ『人と違う』という明確な状態が自分に不可欠だと思い込んでいて、それが自分と他人を区切るための境界線となることを、強く意識し過ぎて生きていた時代があった。

人と違う音楽を聴きたい。
人と違う映画を見たい。
人と違うものを読みたい。
人と違う雑貨を持ちたい。
人と違う服や靴を身に着けたい。
人と違う知識が欲しい。
人と違う才能が欲しい。
人と違う表現がしたい。

人と違うこれがしたい、あれがしたい。

自分というあやふやな存在を、もっと形のある物にしたくて焦ってばかりいた頃の『普通で平凡であること』への嫌悪感と恐怖と不安。それを紛らわせるために必死に人と違うことをするものの、日々の行動の終着点で完成する予定の、自分の未来の姿が全く見えない、不安定な時代。

私はここに居る

心の中で叫んでいた。やたらと手を出す行動の1つ1つは、分かりたくても分からないような、馴染めないような違和感を持ちながら。「こんなことしてる自分は凄い」と無理やり納得させていた。そんな時に、ふと出会った人に「あなたは凄いね」「あなたは面白いね」と嘘のない言葉で言われてしまったらどうだろう。この小説の冒頭のように。

見つけた

お互いにそう思って始まる出会いは、強烈な加速度がある。昔の自分の姿を思い出しながら、そんなイメージを膨らませていた。この小説は、そんなものが詰まっている。なんて恥ずかしいんだろう。よく書いたな、著者。