2016年7月30日土曜日

ショートストーリーNo.1 『最後の運動会』

昔張り切って書いたテキストなので、残しておきたくて再編集。

一時期「アフィリエイトで本当に儲かるのか?」という疑問を検証したくて、クソみたいなアフィサイトみたいな中途半端なブログをやっていたことがあるんですけど。実際、最盛期には月10000円(ほとんど楽天ポイントだった、円じゃない。)程度の収入になってたけど、そのうちGoogleがコンテンツの質を精査するようになって、乱立していた個人アフィサイトは検索にひっかからくなり衰退の一途を辿った。時代が終わって儲からなくなったので私も終了、そしてここに居るという。

そんな、アフィサイト全盛期の頃、楽天で見つけた変な商品に一言添えて記事にする、というクソつまらないことを毎日やってて。このバナナパンツという嫌な商品を発見してぼろくそ書いた。
商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。お買い物される際には、必ず商品ページの情報を確認いただきますようお願いいたします。また商品ページが削除された場合は、「最新の情報が表示できませんでした」と表示されます。
酷いよね。

これに対して、当時の商品詳細ページを見た読者から下記のようなコメントがついた。

【運動会・文化祭・祭り・イベント・クリスマス・忘年会にオススメ!】という商品説明がついていましたが、運動会がよくわかりません。

オッケー!分かった!じゃあ私が張り切って、このバナナパンツの運動会での使い方を説明するね!!!って書いた短編。

前置きが長くなりましたが、ここから本編。短編小説です。
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『最後の運動会』

6年生のクラス対抗借り物競争、序盤に入り今までの競技の中でも一番の盛り上がりを見せていた。

6年3組のアンカーであるサチコが渡されたメモを開くと、そこには『バナナ』と書いてある。お弁当でバナナを持ってきている人がどこかにいるはずだ。ここでサチコが1位でゴールできれば6年3組はトップへ躍り出るのだ。負けるわけにはいかない。



借り物競争は、体育の苦手なサチコが運動会で脚光を浴びることのできる唯一の競技である。沢山の希望者とのジャンケンの結果、やっとの思いで勝ち取った出場権だ。ここで良い所を見せて、密かに思いを寄せているサトシ君にアピールしたい。中学になったら別々の学区になってしまうサトシに、サチコはまだ自分の気持ちを伝える自信がなかったのだ。この借り物競争で得点が入れば、きっとうまくいく。そう自分に暗示をかけていた。


父兄席にサチコは駆け寄り、力いっぱい大きな声で叫んだ。

「誰か、バナナを持っている人いませんかー?バナナでーす!バナナー!!」

すると、父兄席後方から野太い声が響いた。

「バナナならここにあるぞ!サチコ!!」

人々が声の方向に振り返る。歓声の上がる人ごみがサッと2つに別れ、声の主が現れた。それはサチコの父・キヨシだった。



12歳になったサチコは最近、父のことが嫌で嫌で仕方なかった。

きっかけは、どうでもいいことだった。日曜、家族で買い物に出かけた先で友達に目撃されたらしい。翌日、学校に行くと友達が「サチのパパって髪薄いんだね~、ザビエルっぽいよ~」と言い、それを聞いた周りのクラスメイトがクスクス笑った。

今まで父の髪のことなど気にしたことがなかったサチコだが、その瞬間、父のテカテカとした輝きを放ち始めた頭頂部やオデコに恥ずかしさと嫌悪感を覚えた。家で父と会話する時も、オデコが気になり段々と目をあわせられなくなっていった。そんなサチコを父は年頃だから仕方ないと見守りながらも、なんとか会話のきっかけを掴もうと努力するようになった。だが、努力の方向が的外れであった。家に帰ってくるなり、脱いだ靴下を持ってわざわざサチコの所にきて

「今日もくせぇなぁ~!サチコ、パパの靴下はまるでテロだぞ!事件は靴の中で起きてるんだ、なんてな!あははは!」

と、本当にどうしようもないことを言いながら独りで笑っている。サチコは益々、父から遠ざかろうとした。思春期を迎えたサチコにとって、父・キヨシは受け入れることができない存在となりつつあったのである。


サチコは右手に「バナナ」と書かれたメモを握り締めながら、自分の目を疑った。

そこには眩しいオデコに負けないくらいの輝くような笑顔で、上半身裸で濃い目の胸毛をフサフサと生やし下半身は緑のパンツ1枚の父の姿があった。しかも、そのパンツの一番大事な部分には今、まさに自分が捜し求めていたモノが生えていた。

バナナである。

バナナが股間から生えた、謎のパンツ型コスチューム1枚だけで仁王立ちしている父・キヨシの姿がそこにあった。

「マ、まさかサチコの借り物がバナナだとはナァ!パパ、き、今日は張り切って忘年会用に買っておいたとっておきのパンツ履いて応援に来てよかったよ!!さあ!バナナはここだ、サチコォ!」

大きな失笑とどよめきの中、バナナパンツの父・キヨシは運動場のトラックに向かってくる。異様な格好をしているわりには妙に緊張して言葉をカミまくっている。

サチコは失神寸前だった。

パパの馬鹿!!
パパの変態!!
パパのハゲ!!

心の中で渦巻く父への憎悪。しかしサチコが今、バナナを持ってゴールしなければ、6年3組の優勝は非常に難しいものになってしまう。小学校最後の運動会、借り物競争に出る為に数人の女子に香りつき消しゴムを渡して裏工作までしていたのだ。なんとしても得点を稼ぎたい、そして憧れのサトシ君・・・・。


サチコはハッと気づいた。

バナナを股間から生やしたこの中年男が自分の父親と知れたら、サトシ君は自分を嫌いになってしまうのではないか。とてつもない不安に掻き立てられ、クラスメイトを振り返ると、

「いーぞー!!バナナオヤジ!!」
「サチー!!!早く、ゴールゴール!!」
「逆点だー!イケイケイケ!!」

サトシ始め、クラス全員の意識がこの勝負の勝敗に集中していた。誰もサチコと父・キヨシのことを笑う者は居なかった。そこに現れたバナナを股間から生やした中年男は、この勝負に勝つ為の、唯一で最大の武器なのである。笑う者など、誰も居ない。

父・キヨシはこの瞬間、まぎれもなく最後の運動会のヒーローだったのだ。

サチコの父は地元の図書館で司書をしていて、外では物静かで聡明な、家族想いの立派な父親である。小さな頃から本を沢山買ってくれた。寝る前にはいつもサチコの好きな話を読んでくれた。思春期の娘の心を自分に振り向かせる為、たとえ間違った方法とはいえ、世間体を捨ててまで今、こうして娘のために立ち上がっている父がそこに居る。

この瞬間、サチコはくだらない憎悪を捨てた。

パパ、ありがとう。あたし勝つよ。だって、小学校最後の運動会なんだから・・・!



父・キヨシはトラックに出てきた途端、不審者と間違われて、男性教師2名に取り押さえられた。

「俺は父兄だ!!あの子の親だ!!バナナ探してるから持ってきてやっただけだろう!!」

股間からバナナを生やした中年男性が、顔を真っ赤にして暴れている。やがて、サチコの父とは幼馴染みのPTA会長がやってきて、事態を収拾に務めた。教師の中にも、司書として働いている父・キヨシを知るものがおり、バナナパンツの中年男はようやくトラックに躍り出てきた。

丁度その時、1組の選手がメモの「越中ふんどし」を探し当て、父兄席からフンドシが見えるようにとズボンを脱いだ初老の男性が立ち上がったところだった。


「サチコ!!行くぞ!!ゴールはすぐそこだ!!」
「うんっ、パパ!!」


放送委員の実況も熱がこもった。

おおっと、3組のバナナは少し皮がむけているようですね。
3組は走り出しましたが、1組のフンドシの方がゴールに近い模様。

あっ!なんてことだ!フンドシがビデオカメラの三脚にひっかかってトラックに出られないー!

その間に3組バナナ、バナナが走る!!!

フンドシもようやくトラックに出てきました。

バナナが勝つか!フンドシが勝つか!!!

ゴーーーーーーーーール!!!



一位の旗を持ったサチコとバナナパンツをはいた父・キヨシが写る記念写真は大きく引き伸ばされ、今もサチコの実家のリビングに飾られている。サチコはまだ小さな息子に写真を見せながら話す。「貴方のじいちゃんは運動会のヒーローなのよ。」その後ろでは、髪の毛が綺麗になくなった頭を撫でながら、父・キヨシが光り輝く頭に負けないくらいの眩しい笑顔で、娘と孫を見守っていた。

(完)

あ、なんか最後ちょっと自分で書いてて泣けたぞこれ。感動をありがとう!父・キヨシ!

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